九月の札幌 (二) |
しだれて長き糸柳の いつ迄戀ふる母にかも。 生れしつちの上にしも 太身は強く立てれども、 延べし腕(かひな)の力なく 指もろ共にうなだれぬ。 |
そゞろ行く道まちはづれ、 大野の空の低くして 森の緑の圓らかや、 薄るゝ夕日背にあびて 欝たるすがた人の世の 憂ひを深く籠むるらむ。 |
さなり柳にあらなくに、 古りにし樹々も今し猶 土さりあえぬ残り気に 丈並の幅を犯しては、 うらぶれ人のよろこびか か黒き蔭を領じぬる。 |
道をはさめるアカシヤの あいなき木蔭のがれいで、 ふと見るポプラの直ぐよかに 下開けたる浄念の ひとりあかなく一筋に 頂(うなじ)も腕も空させる。 |
こゝにはじめて勇猛の 精進はげむひじりあり。 ポプラ秀でし姿こそ、 ま夏の緑統(し)る君の 高き思を、えらばれて 身に帯び立てる預言者よ。 |
群がる緑皆伏して 烈(なみ)のことごと令まてる 様にも似たり。むべしこそ ポプラ一きは落日の 残りの栄(はえ)を冠に、 天雲しぬぎ立ちにけれ。 |