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私は いつも あなたに 話しかけたいと 思つて いた。 あなたは モンペを 履いて、 眞正面に 風を 切つて、 自轉車の ペタルを ふんで いた。 私には よく わからないが、 何か よく 背たけに 合つた ひきしまた 身なりで、 むだな ものは 何 一つ 身に つけないで、 春楡の 小枝のように 清潔で 颯爽と 走つて いた。 |
――冬に 二人の お子さんを かゝえて、 あなたは 屋根の 雪を 下ろして いた。 固すぎも せず、 血色の よい (それとも 雪やけの せいか) はつきりと した まなざしで いつも はじめて 物を 見る ときのような 初々しさで、 笑顔を わすれず、 だれとでも よく 話し合つて いる あなたを 見た。 |
てきぱきと した ものごしと、 艱難に くじけない 生一本の 健康さの 奥に 私は いつも 典型的な 北の 女性の おもかげを 見た。 町を あるいて 私は 幾人もの あなたたちに 出合い。 その たびに 何か しめつけられるような せつない 思いを 胸に した。 私たちの 雌鹿、 敏捷で くじけぬ 北の はしらよ。 私は きようも こうして 心を 洗われて かえる。 |