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かなしきは小樽の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ
 
 



六月の札幌
 
 

 グランドホテル付近  笠井清

向ふに電車の安全地帯がある
そばの東西に延びた一本道は
街はずれからはずれまでのアスフアルト
新築された警察署と市役所
道の突端の神社まで
別荘と高層の軒続き
 
(北海道庁前庭/本郷新・北の母子像)
                                
(道庁別館/本郷新・エチュード)
 
斜横にあるのは赤煉瓦だ
大きな鉄柱の門
池と芝生は美しかった
昼のひとゝきのいこひを
緑の芝生に戯わむれる人々よ
 
(道庁別館/坂担道・陽光)
 
(佐藤忠良・道民ホールレリーフ「開拓以前」より)
 
雨降れば降れ
風吹かば吹け
白い花に吹く季節の風を
身にしみて知ってくれるだらうか
向ひ側の保険会社が建った時
詩を作る友が
コンクリート煉りに汗を流した
同じ別な友も
苦熱を重ねたドン底で
このホテルの工事にありつき
はるか高い鉄梯を登ったことがあった
友よもう苦しみを語るすべもなきや
 
(札幌グランドホテル/加藤顕清・アイヌの像)
 
(北海道銀行本店/本郷新・ライラックをかざす乙女)
 
ホテルは鉄塔に日の丸の旗を掲げ
日本文化の誇りをたたえ
クリーム色の建築が
陽春に輝り返えるその石の下で
盲目の女乞食が座ってゐる
ホテルの窓とベットと女乞食と
悲惨な風景である
 
(道銀本店/佐藤忠良・本郷新・山内壮夫合作「大地」)
 
(道銀本店/佐藤忠良・本郷新・山内壮夫合作「大地」)
 

ホテルだけが電気を灯してゐるやうだった
アカシヤの並木が葉風を立て
磨かれた自動車が
幾台も停まると
ホテルの影と屋並の影と
その中を行く人の姿と
そして影が重り合った
人はもう居ない
塔は高く、その影はあくまでも黒い
一台の自動車が
グーンと冷めたい空気を破って走った