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かなしきは小樽の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ
 
 



二月の後志
 
 

 夕刻、電話が保安部より作間に入った。
 「そうか、奴らは発見されたか」
 激しい銃撃戦の末、ジープを盗んだスパイは全員、射殺されたということであった。
 「場所は?」
 「はい、比羅夫町半月湖の湖畔であります」
 とすれば、羊蹄山の麓である。
 「そうか、それはよかった」
 作間は安堵して電話を置いた。
 ……だが、そのころ、一人の男が、羊蹄山麓雪原の下に潜んで、じっと時を待っていたのだ。今朝、沙夜香のアパートの窓越しに、鐸冶が見掛けたあの男である。男は、シベリアの極寒の原野で訓練を受けた特殊工作員である。
 それにしても、不思議ではないか。男の体は完全に地上より四メートルも下で雪に覆われ、呼吸は停止しているのだった……。
(荒巻義雄「ニセコ要塞1986」)

 いやー、おもしろいもん、見つけた。
 図書館の書庫で「義経埋宝伝説殺人事件」という本を見つけて、なにげなく読みはじめたら、面白くて、面白くて… あちこちから荒巻義雄の本を借りてきて、今、「ニセコ要塞1986」読了。
 なんてったって、ニセコ要塞だもんね。半月湖とか、雷電海岸とか、後志アイテムがばんばん出てくる。半月湖で殲滅した一隊がじつは囮で、羊蹄山麓の雪の下に潜む本命が動き出す…とか、この距離感がわかる道民には面白さ倍増なんですけど。

 ところが、スミノフ上陸軍の一派は、突如として隣接する小樽港を襲って、あっという間にこの街を占領してしまった。なお、ここでも彼らは大規模なガス攻撃を行ない、守備大隊のみならず、居住する一般住民を全滅させたのである。
(同書より)

 このやろー、やりたいようにやってるなぁ。あんまり小樽の街を壊すんじゃねえ。

 午後四時、早々と日が暮れはじめる。白い迷彩服を着けた烏山たちは、薄闇に紛れて、朝里峠を出発した。
 高原状になった尾根に沿って進む。昼なら眼前に広がるはずの石狩湾は、雪と闇に紛れて全く見えない。目的地の張碓は、札幌と小樽の境界で、山地が切り立つ崖となって海に落ち込んでいる。
(同書より)

 対するIBM軍も、クロフォードの鉄道や張碓トンネルを爆破したり、廣井勇博士がつくった防波堤を破壊したり、こっちも、やりたいようにやってるし…

 魚月のスミノフ軍スペツナズ(特殊工作員)のニセコ要塞来襲から一年。小樽の街、ぼろぼろ。札幌の街も陥落。千歳基地もついに壊滅。残るニセコ要塞は、さあどう撃って出る。
 たいへん面白くよみました。(兵器とか戦術の詳しさには少し辟易したけど…) あとがきに顕れている気の確かさも小説を引き締めている。

 核による均衡によって、世界は、今、微妙なバランスを保っています。おそらく米ソ首脳の本音は、世界の破滅は望みはしないが、さりとて戦争をなくするつもりはない……。
 世界史のいつごろからそうなったのかは知りませんが、戦争の勃発が、世界の経済と密接すぎるほど結びついているのは否定しがたい事実です。
 現に、世界恐慌や大不況を脱するのに最もいい手段は、世界のどこか、しかも自国には安全な場所で、戦争を起こすのが一番てっとり早い手段だと、大国の首脳たちは考えているのではないでしょうか。
 そうした無辜の民の犠牲と悲惨の上に成り立つ大国のエゴイズムが、数多い地域の紛争を発生させる。そして、日本の場合も、確かに経済大国にはちがいありませんが、いつ彼らの謀略によって、そういう痛い目にあわされるかわからないのです。
(同書/北のテンション―あとがきに代えて)