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かなしきは小樽の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ
 
 



一月の札幌
 
 

 なんだってこんな特性を持って生まれついてしまったのか。三波は自身のこの能力が疎ましい。力を自覚してから三十になった現在まで、ずっと呪いにも似た感情で憎んできた。まさしく三波にとっては呪縛でしかなかった。自身の生活に常に女の影が付きまとうという呪縛。
(乾ルカ「ばくりや」)

 世の中には、なるほど、不思議な「能力」を持った人がいるものだ。この、三波の「女に異常に好かれる」能力。あるいは、「就職した会社が悉く倒産する」能力。(公務員なら大丈夫だろうと思ったが、その自治体は財政再建団体に転落した) あるいは、「間の悪い」タイミングに悉く居合わせてしまうといった能力もあった。

 だから、三波は半信半疑ながらも、あの店を訪れたのだ。
 あれから半年。店からは何の連絡もない。あれを店と表現していいものかどうかも曖昧なのだが……。
 あれは雪の夜の幻だったのだろうか?
 『ばくりや』
 それが店の名だった。

 「ばくる」というのは北海道方言。「交換する」というほどの意味ですね。「オレの持ってるこっちとばくってくれやー」という風に使います。(幼児語? あまり、大人がこの言葉を使っていた記憶ありません…)
 その、「ばくりや」。ある人間の「能力」と、別の人間の「能力」をばくってあげましょう…という商売です。本を読んでいて、その「ばくりや」のお店、なんか私の実家の近くなんじゃないかなと思った。

 快速が止まらない隣駅の付近にさしかかると、一瞬のつむじ風のような賑わいがあり、それからまたすぐにあたりは静まり返る。霙が傘を叩く音だけがのぞみを包み、一軒家が立ち並ぶ住宅地は雪雲にすっぽり覆われたかのごとく灰色に沈んでいた。一人として自分以外の人間を見なかった。のぞみは足を速めた。はね上げた水滴が足首にかかった。(中略)
 ――こんなところがあったのね。
 そこだけ子供の身の丈程度沈下した土地。下り階段と斜めの路地。どうして取り換えないのだろうと首をひねらざるを得ないほど古びたポスト。歯科、雑貨屋、クリーニング屋、寿司屋、床屋。いずれも住宅地の中に突如なんの脈絡もなく作られてしまった、三流映画のセットみたいだった。
 路地の一番奥に、洋館を見た。

 乾ルカの小説。札幌・小樽が舞台になっていることも多く、最近よく読みますが、なんか、芸風がちがうというか、小説作法がちがうというか…
 アイデア一つ二つが浮かんだところで、もう小説書きはじめているんですかね。何回でも書きなおせる。コピーもできる。気に入らなかったら、リセット。紙の原稿用紙に書いていた時代には考えられなかったインフラが実現して、それを当然のように駆使する作家も出てきたということなのだろう。こういう作品にもとりあえずつきあいます。選り好みなんか、しない。