九月の小樽 (二) |
小熊秀雄、明治34年9月9日、小樽に生まれる。 産科院よるのさびしさ夕食の 鈴のしづかに鳴りにけるかな おぎや……たかくさぴしく産科院 けだものの子のうまれけるかな けだものの子はかたくもろ手を胸にくみ しつかりなにかにぎり居るかも うすら毛のけだものの子は四つ足を ふんばりにつつ呼吸づきにけり けだものの子は昼としなれぱひそまりて 小鼻かすかにうごめけるかも 小熊秀雄のあまりいい読者ではないけれど、詩集(岩波文庫版)の冒頭に出てくるこの詩「けだものの子」は好きですね。小樽に生まれたんだなと、たしかに実感するものがある。そして、遺稿。「親と子の夜」にしんみりする。秋は、特にね。 どこから人生が始まつたか――、 父親はいくら考へてもわからない、 いつどうして人生が終るのかも――、 ただ父親はこんなことを知つてゐる 夜とは――、大人の生命をひとつひとつ綴ぢてゆく 黒い鋲のやうなものだが 子供は夜を踏みぬくやうに 強い足で夜具を蹴とぱすことを、 そんなとき父親は 突然希望でみぶるひする ――夜は、ほんとうに子供の 若い生命のために残されてゐる、と。 |