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かなしきは小樽の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ
 
 



七月の小樽 (二)
 
 

 スタートは少女小説のお約束、バレンタイン話題で始まる九頭竜郁流(くずりゅう・かおる)の「北へ。」。なんか…、春野琴梨とか川原鮎とか左京葉野香とか、登場人物の名前読むだけでも恥ずかしくなります。バブル期ならではの、佐々木丸美みたいなものかなと思って読み始めたのだけど。
 でも、川原鮎の家が寿司屋とか、葉野香(←「はやか」と読みます)の家がラーメン屋とか、予想外の展開に、ちょっとだけ、やる気が出てきた。札幌駅のステーションデパート(おお!)を出た葉野香とターニャ・リピンスキーとの出会いなんて、ずいぶんカッコいい技を使うもんじゃないか。

 その、ターニャさん。小樽在住なんですね。休みの日には、いつも、ここへ。

「でもさっきからずっと、この絵見ていたでしょ?」
「はい。どこかに赤色をつかっていないかとおもって、見ていました」
「赤い色なら、たくさん使ってあるけど――」
 少女は不思議そうな顔をした。
「そうですね。でもわたしがさがしているのは夕焼けのような赤なのです。わたしの国のことばで、それを“ツヴェト・ザカータ”といいます。それはそれは美しい赤です。わたしは、そんな赤をさがしています。でも、この絵の中にはありません」
「この赤じゃダメなの? ほらあの花の赤とか、女の人のドレスの赤とか……とってもきれいだよ」
「でも夕焼けの赤とはちがいます」
(九頭竜郁流「北へ。」)

 ペテルブルグ美術館。ケチらないで、中に入っとけばよかった。(地下売店のみの利用…) 今、考えると、「ドストエフスキーの部屋」とか、「アンネ・フランクの部屋」とか、なかなか魅力的なアイデアもあったりして、確認しなかったことがとても悔やまれます。
 元は小林多喜二も勤務していた北海道拓殖銀行小樽支店。大蔵省営繕課・矢橋賢吉の設計。(蛇足ですが、矢橋賢吉は国会議事堂や拓銀札幌本店の設計も手がけた) ちょうど、ペテルブルグ美術館がオープンした平成7年7月27日直後に発行された「小樽の建築探訪」(北海道新聞社,1995.8)がこの美術館にもふれていますので引用します。

 初期鉄筋コンクリート建築の北海道の主要遺構で、小樽経済の絶頂期であった大正12年に建てられ、三菱、第一とともに「北のウォール街」の一角を飾った。
 大蔵省の営繕に属した矢橋らは、銀行に貸し事務所を併設し、すっきりした外観にまとめている。銀行内のホールは2階まで吹き抜けており、カウンターに沿って建つ円柱が印象的である。
 近年まで、使い手のない建物であったが、平成2年に小樽ホテルとして復活。イギリス人建築家N.コーツは海のイメージを歌い上げ、各室異なった内装は、それなりにファンを引きつけた。
 さらに、平成7年、「ベテルブルグミュージアム」へと転身。国立ロシア美術館などから絵画を借り受けて展示する。現在の26室構成が、8、9大部屋に改装されるが、小林多喜二が執務をしたところにどんな絵がかかるのかは、興味あるところ。
(小樽再生フォーラム編「小樽の建築探訪」)
 
 
 一足早く、平成3年7月にオープンした石原裕次郎記念館の館長がペテルブルグ美術館を表敬訪問した…なんて面白い記事も当時の新聞にうかがえます。どちらも女性館長ということでも話題になっていたんですね。

「すてきな作品に感激」
裕次郎記念館の石原まき子館長 ペテルブルグ美術館訪問
小樽市色内に二十七日オープンしたペテルブルグミュージアムに、市内の石原裕次郎記念館の館長で夫人の石原まき子さんが訪れ、女性館長の先輩として今井千香子館長を激励した。
 この日、東京から駆け付けた石原さんは、今井館長の案内で館内を見学した。一つ一つ展示品を説明する今井館長に時折質間を交えながら、熱心に鑑賞した。
 最大の作品「第九の波」の前で石原さんは「裕次郎の第二の古里で素晴らしい作品が見られるなんて感激です」。そして「今井館長の博識ぶりには驚いた。私も館長として見倣わなきゃ」と話し、女性館長同士「頑張りましょう」の固い握手を交わしていた。
(北海道新聞 1995年7月31日 小樽後志欄)

 その今井千香子館長が監修した展覧会カタログが5冊市立小樽図書館に残っています。「Toulouse-Lautrec」、「パブロ・ピカソ」とその影響を受けた画家たち」、「ロシアにおける劇場展」、「幻想リアリズム展」、「国立ロシア美術館100年記念展」。
 小樽でロートレックやピカソが見られたなんて、なんか夢みたい。ロートレックも素晴らしかったけれど、「ロシアにおける劇場展」のカタログにはちょっと胸うたれました。「幻想リアリズム展」も、すごい、すごい。

 こんな独創的な美術館がオープンしたっていうのに、外では、三波春夫の「潮音頭」を踊っているってんだから、ほんと小樽は何なんだか。