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かなしきは小樽の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ
 
 



六月の後志 (二)
 
 

 駒ヶ岳駅をすぎると、ホウノキ、ドロノキ、ニセアカシア、カシワが多く、ミズナラの鉄道防雪林があちこちに作られている。(中略)
 こ二から列車は噴火湾に沿って進み、八雲からは、あちこちに牧場がみえて、サイロ(牧草を貯える塔)のある農家が特徴ある風景をなし、山崎辺りから牧草地にまじって、ハマナス、カワラマツバ、ノハナショウブ、アマニウなどが色とりどりに咲いて、本州からの長旅をなぐさめてくれる。
(藤井常男「車窓より見た日本の植物」)

 現代教養文庫。ひと頃なら、どんなに小さな図書館に行っても現代教養文庫や保育社カラーブックスあたりはそこそこ揃っていて重宝していたんだが、最近はとんと見ない。十年前、とある札幌の古本屋で更科源蔵の「北海道の旅」にとんでもない高値が付いているのを見て吃驚したことがあるけれど、先日行ったら、その古本屋に「廃業」の紙が貼り付けられているのを見てもっと吃驚した。由緒ある古本屋なのに。(やっぱり「iPad」がトドメの一撃だったのかなぁ…)

 長万部からは噴火湾に別れて山問部に入る。列車がホウノキ、トドマツ、などの多い森林地帯を登ってゆくと、フキ、イタドリもだんだんと大きくなって、一寸内地ではみられない位、見事なものとなってくる。
(同書より)

 この人が単なる植物マニアというだけではなく、相当な重症の「鉄ちゃん」(←当時この言葉はありませんが)であることは、次のような箇所を見ればわかります。

 さて、黒松内から日本海側に向って、寿都鉄道で北上すれば、朱太川水系に属する春川左岸は「歌才プナ自生北限地帯」として天然記念物に指定されている。
 ブナは、わが国、落葉広葉樹種中の代表種で、一般森林植物の分布、生態に大きな関係をもつ基準種とされているが、この付近の、落葉広葉樹林中、その約85%をブナが占め、自生北限地帯に当たっている。
 蕨岱、黒松内、昆布あたりはかなりの森林で木材の搬出も多い。そしてこの辺から、富士山そっくりの形をした羊蹄山が、右に左に森林の上に、ぽっかりと浮んでみえる。この「後方羊蹄山」は高山植物帯の代表的なものとして天然記念物に指定.されている。
(同書より)

 まあ、「鉄ちゃん」の呼称は失礼か。昔の教養人は、別に関川夏央じゃなくとも、鉄道に詳しいことは嗜みのひとつだったから。ここを通るなら、寿都(すっつ)鉄道に言及しない方がおかしいのです。

 江差追分にも歌われた歌棄(うたすつ)や磯谷にも近い寿都町は、かつてニシン漁で栄えた古い港町。この日本海に.面した寿都と函館本線の黒松内駅間16.5qを結んでいた寿都鉄道は、定山渓鉄道から購入した8105や8108(後に茅沼炭鉱専用鉄道から購入した8111と8119が2代目8105、8108となる)といった古典蒸気機関車が活躍する地方鉄道として知られていた。
(宮脇俊三編著「鉄道廃線跡を歩くW」/寿都鉄道)

 函館に単身赴任していた頃、小樽に帰るときによく使っていた旧寿都鉄道〜旧岩内線コース。懐かしいですね。定山渓鉄道に茅沼炭鉱線か…

 黒松内駅を出発した寿都鉄道は、すぐに函館本線と分かれて黒松内川を渡っていたが、橋脚や橋台の痕跡は残っていない。川を渡り終えた線路跡は、道路と並行したクマザサの列となって辿ることができるが、やがて、畑の中に消えてしまう。
(同書より)

 そして、植物。時が止まれば、やがて緑がすべての人間の営みを覆い尽くしてしまう。山裾や道路脇に不思議なイタドリやクマザサの列が見えたなら、線路跡やトンネル跡を疑ってみた方がいい…というのは北海道廃線跡巡りの鉄則です。遊歩道やサイクリングロードにして鉄道跡を残してくれる優しい市町村ばかりじゃない。ついに過疎の限界の日が来て、そして誰もいなくなった集落もめずらしくない北海道。今、2011年6月。