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かなしきは小樽の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ
 
 



四月の小樽 (三)
 
 

 祝津(しゅくつ)の燈台が、廻転する度にキラッキラッと光るのが、ずウと遠い右手に、一面灰色の海のような海霧の中から見えた。それが他方へ廻転してゆくとき、何か神秘的に、長く、遠く白銀色の光茫を何海浬もサッと引いた。
(小林多喜二/蟹工船)

 さあ、蟹工船の出航だ。

 小林多喜二のこと、あまり知らないが、それでも、白樺文学館の「多喜二ライブラリー」HPを見るのは大好き。いつ見ても、なにかしらの進展がある。たとえば「多喜二を読む」のページ。いつの間にか「新聞紙面から追う多喜二の足跡」のページが増えている。

 小説「蟹工船」のヒントとなった「博愛丸」(←すげえ名前!)の事件の新聞記事を読むことができる。とてもありがたい。文学館の鑑だ。

記者団は偶々保護室に休息してゐる同船雑夫小山外五名の内一名の談話を聞いた。
私はこんな荒くれ男ですが乗船した日から今日迄殆ど生きた気持など無かつた程虐待され通したもので佐藤がウインチに巻き上げられ十間計りの空の上で『ゆるしてくれ、ゆるしてくれ』と泣いた声が今でも耳について離れません労働と言へば殆ど人力の及ばない程度のものでそれを一寸でも油断するとハンマーが飛ぶ棒が飛ぶ、これを見て下さい、私の体はこの通りだ
と身体の生々しい創痕を示したが談話が偶々西山に及ぶや水上署員某々二名が突然記者団と漁夫との間を引分け談話を禁じた。
(大正十五年九月八日 函館新聞 朝刊第三面)

蟹工船博愛丸に雑夫虐待の怪事件
行方不明の二名にをこる疑問
函館水上署に召喚
「函館電話」函館市大菱商会経営の蟹工船博愛丸は六日函館に入港したが同船が入港と同時に漁夫雑夫十余名は函館水上署に出頭し監督阿部金次郎が出漁中漁夫雑夫を虐待し尚二名が行方不明になつた事件を訴へ出た為め司法部に於ては俄に活気を呈し六日夜来関係者を続々召喚取調中である聞く処に依れば阿部監督は彼等仲間では鬼金と云はれる男で狂暴虐待至らざる処なく昨年秋多数の病死者を出し之れに関連して○○問題迄伝へられた福一丸事件も監督であつた彼が主働体となつて行ひ鬼金又は阿部金の名を聞いたのみで漁夫雑夫は震え慄のくと云つた有様である今回の取調と共に第二の監獄部屋として世間から疑惑の目で迎へられて居る蟹工船の内容は明かとなるべく水上当局に於ては之を機会に徹底的取調をする筈である
(大正十五年九月八日 小樽新聞 朝刊第七面)

 さらりと、函館水上警察(←「ウラジオストクから来た女」、よかった!)の名前も出たりして、いやー、うれしい。何度でも繰り返す、ほんと、文学館の鑑。

 昭和28年の映画「蟹工船」、見た。多喜二ライブラリーと同じく、価値ある。