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かなしきは小樽の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ
 
 



四月の札幌
 
 

 二〇〇五年の四月、ASUNAROの移住計画が実行に移された。ASUNAROを受け入れる十三の市町村と道庁は、風力発電や住宅やDスクールなどの施設の建設に全面的に協力した。土地はほとんど無償で提供された。
 札幌と千歳の間のベルト状の一帯に、二〇〇五年秋には第一陣として約十万人のASUNAROが移住する。道庁は十三の市町村の合併を考えていて、そのことについてはASUNAROは同意していたが、新しい市名では両者の間で意見が分かれた。道庁は「飛天市」という名前を挙げたのだが、ASUNAROは移住区のほぼ中心付近にあった野幌という地名を好んだ。
(村上龍「希望の国のエクソダス」)

 そうですか。2005年なら、知事は高橋はるみですね。

 ASUNAROの代表団が知事室の応接間に入ると、天井からくす玉が割れて紙吹雪が舞い、「飛天市」と書かれた垂れ幕が降りてきた。(中略)
 ご配慮ありがとうございます、とポンちゃんは言ったが、ぽくらはもっと普通の名前のほうがいいと思うんです、とすぐに市名の変更を求めた。野幌という町が現実に移住区の中心付近になるのでそれを市名にしたいと思います、ASUNAROの広報の女子がそう言った。(中略)
「野幌市でいいと思うんですが、どうでしょうか?」
 ASUNAROの広報の十七歳の少女にそう言われて、知事は絶句した。
 数日後、市名は野幌に決まった。
(同書より)

 本当に、村上龍って、どうでもいいことにこだわるなぁ。「飛天市」でも、「野幌市」でも、ダサいことに変わりはないじゃん。そして、ここに説教癖が加わると、目も当てられない小説になる。上に引用したふたつの文章の間には、こんな文章が挟まっている。

 彼らは、コーデュロイやウールのパンツと茶か紺のジャケットを着て、中にはネクタイを締めている者もいて、ダッフルコートかダウンジャケットを腕に抱えていた。女子の代表も一人いたが、彼女はべージュのワンピースに黒のダウンコートを羽織っていた。これまでASUNAROがファッションで何かを主張しようとしたことは一度もない。育ちが良く偏差値が高そうな中学生、という感じの目立たないファッションをずっと通してきた。彼らはファッションで自分たちを大人の社会から際立たせる必要がなかった。
(同書より)

 若者は、かくあるべし、か…

 私も似たような傾向がある。だからなのか、村上龍の小説を読む時は、こういうつまらん箇所に時々苛つく。時間が経つと、こういう言説の本音は、それこそ十五の中坊の目にも明らかになります。結局、ただのオヤジの小言。

 放課後に一組の番長を気取っているやつの帰りを尾行し、人気のない所でひとりなったところで、「おい」と声をかけた。振り向きざま両手でしっかり胸ぐらを掴み、鼻めがけて思い切り頭突きを食らわした。グシャッという変な音がした。鼻の骨が折れたのかもしれない。そいつは、一瞬、何が起きたのかわからない顔でポカンとしたまま突っ立っていたが、ぶわっと鼻から血が噴き出すと、震える手で拭い、それが血であることがわかると、「ああ、あああああ……」と声にならない声を上げた。すかさず、股聞を蹴り上げる。「ぎゃっ」という声をあげて、そいつはうずくまり、股間を血まみれの手で押さえながら地面に倒れると「う〜む、う〜む……」と足をバタバタさせながらもがき苦しみはじめた。(中略)
 かっちゃんは倒れているそいつをまた両手で胸ぐらを掴んで立たせた。顔を引きつらせながら「んん、んんんん……」としきりに首を振っている。もうやめてくれといいたいのだろう。
「怖えのかよ? このバカ野郎がッ!」
 みぞおちに右足のひざをめり込ませた。(中略)
「三組のやつに言っとけ。明日はおめえの番だってな。その次は四組。その次は五組のやつだ。それからいいか。またてめえらが集団でおれをやっても、おれはおめえらがそんな汚い真似をやめるまで何回だってこうやってひとりずつ仕返しするからなッ」
(西川つかさ「青春〜ひまわりのかっちゃん」)

 後志は倶知安産になる「村上龍」解毒剤。「札幌」解毒の効能もあり。