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かなしきは小樽の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ
 
 



一月の札幌 (三)
 
 

 マコ
 洋太が闇から現れた。モニターの中で唯一自由に動き回るもの。それが洋太のコトバだった。
 ト……クン。
 声なきコトバが向こうからまことを呼ぶ。まことはその文字のひとつひとつを、泣きたくなるほど懐かしい声に変換して読んだ。
 自分の頭の中の闇にじんわりと広がっていく声。細胞に何の抵抗も与えることなくしみ入っていく声。それがまことを呼んでいた。
 まことの小さな指が勝手に動いた。
 ハイ。
 指は残りの文字数をいかに多くとっておくかに細心の注意を払っていた。
 洋太はいつものようにスラスラと“語った”。まるで応答のすべてを最初から知っているかのようだ。
 「ノーライフキング ドンナフウニツタワッテマスカ」
(いとうせいこう「ノーライフキング」)

 札幌の小山洋太くんは、やはりノーライフキングを知っていた。全国を結んだコンピュータ・システムが売り物の進学塾「あすなろ会」。塾講師の目を盗んで、東京のまとこは札幌の洋太くんと会話を続ける。塾のパソコン通信で。
 二人がノーライフキングの噂をしあっていた1986年のある日、私も買ったばかりの「まいと〜く」に付いていた講習会優待券を利用して有楽町のビルに行ったりしていましたね。(PC−VAN、なつかしいなぁ!) その頃立ち上げたばかりの学校図書館ネットワークに、なにかこの通信システムは使えるのではないか…という下心で。
 パソコン通信。専用ソフト等を用いてパソコンとホスト局のサーバとの間で通信回線によりデータ通信を行うサービス。全盛期は1980年代後半から1990年代前半。「Windows95」の登場でインターネットが一般ユーザーに開放されるまでの十年間を席巻した通信システムです。もう誰も憶えていないだろうけれど。(私も起動の方法ですら忘れてしまった)
 インターネットが世界中のネットワーク同士を結ぶ開かれたネットワークであるのに比べると、パソコン通信は原則として特定のサーバとその参加者(会員)の間だけの閉じたネットワークでしたね。「あすなろ会」みたいな。(そういえば、村上龍の「希望の国のエクソダス」も「ASAUNARO」だったな…)
 ノーライフキングの噂を語り合うのなら、やはり、設定は「札幌」の洋太くんといったところに落ち着くんでしょうね。「小樽」の将太くんは寿司屋修行で忙しいし。「青森」、「宇都宮」、「名古屋」、「長崎」、「ソウル」…、うーん、なにかピンと来ない。

 何言ってるんだろうか… ああ、パソコン通信の思い出話だった。

「サッポロニハ シロイマジョガデルビルガアル。ミルトシニマス」

 ツイッターって、要するに、老いぼれたパソコン通信。