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かなしきは小樽の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ
 
 



十一月の小樽 (三)
 
 

 平成18年11月8日朝の北海道新聞。第一面には「竜巻9人死亡」の文字がデカデカと。7日午後1時すぎ、網走管内佐呂間で竜巻が発生。この突風は、若佐地区で新佐呂間トンネル工事を請け負っていた作業員宿舎を強襲し、9人死亡、23人重軽傷の大惨事を引き起こしました。

 おそらく、この惨事がなければ、一面を飾っていたであろう記事が第二面端に。

小樽短大 08年3月閉校 再建断念、道内で初
【小樽】学生数減少で傘下の小樽短大(小樽市入船)が経営難に陥り、再建計画を策定中の学校法人小樽高川学園(赤坂勝理事長)は七日、同短大の来春の新入生募集をやめ、〇八年三月末で閉校することを決めた。学生確保の見通しが立たず、存続は難しいと判断した。道内の大学・短大が経営難で閉校するのは初。
(北海道新聞 2006年11月8日)

 道内初の、「閉校」という選択肢。センセーショナルな話題で小樽に視線を集め、あわよくば今一度「再建」の目もあるか…とでも打算したのだろうか。(いつもこの技ばっかり…) でも、佐呂間の竜巻事件で、チョン。(ああそうですか。「閉校」なのね…) 最後の最後まで、華のない連中だったな。

 同学園は負債総額三億七千八百万円を抱え、八月、札幌地裁に民事再生法の適用を申請し、開始決定を受けた。四国を中心に予備校を経営する「タカガワ」(徳島市、高川晶会長)の支援を受け、今月中に再生計画をまとめる予定だった。
(同記事より)

 この二年前、私はこの短大を辞めていた。図書館の資料費をゼロにし、図書館に一人しか残っていない私を配置転換し事務室勤務に縛りつけようとした短大。「空いている時間には図書館の仕事にかかわってもよい」などとつらっとぬかす経営側にもう愛想がつきていた。辞めて、私がつぶれるか、小樽短大がつぶれるか、勝負してみたい気も少しはあった。だからこそ、この日の新聞切り抜きをまだ持っている。

 どんなに滑稽な連中だったか。

 鈴蘭女子短大の教室で、鳴海は熱弁をふるっていた。
「なるほど、二人の恋は、あまりにも性急で無鉄砲にみえる。ロミオはパーティーでひと目見るなりたちまちジュリエットを恋し、愛を誓い、翌日には結ばれている。現実の世界では考えられないほどのあわただしさだが……しかし諸君! ひるがえって考えてみると最近の世相はどうだ。この性急さも、現代ではまったくおかしくない」
 生徒たちはニヤニヤ笑いながら、教授の顔を眺めている。
 鳴海は生徒たちの顔を見まわすと、語調を変えて、
「君らだって、うかうかしちゃおれんぞ。いつ誰に恋をされ、プロポーズされるかわからんのだ。ふだんからの心がまえが大切だねえ。あらたまった席であわててすましたところでもうおそいんだ」
 生徒たちは「うわーッ」と矯声をあげた。
(山田洋次原作「遙かなるわが町」)

 このモデルをよく知っている。退職金欲しさに、図書館を守らなかった図書館長。最後の一人の私が事務室に飛ばされるというのに、それでかまいませんと尻尾を垂れていた奴。
 どこで修士号や博士号を取ったのか知らないが、自分たちを「学者」と呼び、互いを「教授」と呼び合う。田舎短大の知能指数が遺憾なく発揮された怪作「遙かなるわが町」ではありました。あの新聞記事はまだ持っているけれど、この本を読み返すことはもうないだろう。もう、捨てる。