九月の小樽 (二) |
船見坂。そこをまっすぐ登って行って、突きあたりで左へ入る。すぐに右の民家群の中へ。休まず坂を上がって行くと、右手の斜面に「日光院」の門が。 船見坂は、いつ行っても怖い。坂から見下ろす小樽の街は、おそらくは小樽の三本の指だとは思うが、写真を撮るために車を停める気にはならない。それくらい、急坂。冬の雪道など、ここを通ろうとは思わない。 ようやく日光院に車を止めて、そこで街を見下ろす。なんて、いい眺めなのだろう。そして、風なのだろう。歌が聴こえてくる。「北風の港」の歌が。 遠くのぞめば 風の音がきこえる 風のむこうに 波立つ海がある 海を背に急坂を上れば 澄みわたる空と丘がある 傾いた屋根が 地を這うようにたち並ぶ 砂利道をさらに上れば 頂近く墓地がある 父がいる 母がいる 祖母がいる 兄姉と友人のなかに 僕がいる 日光院。ここに、岸誠の詩碑が建っています。かかっている詩は、ロケーションからいっても「北風の港」かな…とも思うのですが、なぜか「小樽・わが町」。その、「2」のフレーズ全文。でも、「1」も、お約束の小樽賛歌なのでダブル・エクスポージャーで引用させていただきます。 1 銭函の駅は波打際にある 千歳空港から札幌を経て 小樽へ向かう列車が 銭函の駅を出ると 突然海が目の前にせまる 石狩平野の広がりが消え 海の中に小樽がはじまる 2 どこからでも海が見える 公園や学校や坂の上から 小樽駅を出ると 道は一直線に海へつづく 倉庫と運河があり 防波堤が並び 赤と白の灯台が残る どこまで行っても 決して平坦でない道 めぐりあうのは 若き日の魂のかけら 小樽は独りで歩く街。徒党に、若き日の魂のかけらはないだろう。永遠に。 |