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かなしきは小樽の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ
 
 



三月の小樽 (三)
 
 

 運河沿いに歩いて行く二人。運河に沿って、段々と駐車している車の数が増えて行く。
 気がつくと、二人の周りは、カメラを抱えて運河の写真を撮りまくっている日曜カメラマンで一杯になっている。
玲奈「(それを見て)なんだか知らないけど、うっとおしいネ、こういうのって」
祐子「やァよねェ。所詮、趣味なのよねェ」
玲奈「(祐子の大声を制して)バカねェ、聞こえたらどうすんのよォ」
祐子「平気よォ、そんなのォ。趣味と芸術は違うのよォ」
 近くにいる若いカメラマンが二人の方を振り返る。
玲奈「ホラ、聞こえちゃったじゃない」
男「スイマセン(と二人に駆け寄る)、ちょっと、そこに立っててくれませんか?」
玲奈「エ?」
男「いや、そうしてると絵になるんですよ」
祐子「モデルになるの?」
男「エエ、よかったら」
玲奈「あたしはヤァよ」
祐子「いいじゃないよォ」
男「ア、それいいな。そうやって、二人で運河を背にして、何気なく立ってて下さいよ」
祐子「こうォ?(と、運河にかかっている橋の欄干に手をかけて露骨にポーズをつける)」
男「アッ、いいなア、スゴイいい!」
祐子「脱いだ方がいいかしら?」
玲奈「(独白)バカ」
男「いや、そこまでしなくていいから、(玲奈に)スイマセン、ちょっと」
祐子「玲奈ちゃァん、いらっしゃいよォ」
玲奈「(祐子に近づきながら)趣味はどうしたのよ、趣味はァ」
祐子「かなり、いい趣味だと思わない?(とニカッと笑う)」
 バシャッとシャッターの音。
(橋本治「桃尻娘プロポーズ大作戦」)

 1980年4月封切りの「にっかつ」映画。「桃尻娘」、「桃尻娘ラブ・アタック」に続く第三作。前二作はロマンポルノでしたが、この「桃尻娘プロポーズ大作戦」は一般映画。したがって、成人指定がなく、テレビでも再放送できました。私も、この映画、東京12チャンネルの昼の再放送で見ています。(公共図書館に勤めていた頃なのかな? なぜか月曜や火曜の平日に休みがありました)

 この小樽運河の場面、憶えているような、いないような… ただ、寅さん映画もそうですけれど、映っている運河は、幅が狭められて小綺麗になる前の黒々とした昔の運河です。今となっては貴重なフィルムに思います。
 映画は時々こういうことがありますね。例えば、1995年の岩井俊二監督の「Love Letter」。主人公の住む家のロケに使ったのが小樽の坂別邸。田上義也設計の名作品でしたが、2007年5月に火災で焼失。もう、映画の中でしかあの家に出会えません。さらに、「Love Letter」には、もうひとつの悔いが。それは、もし制作費に余裕があったなら、この映画は阪神淡路大震災直前の神戸の街を映像に残していたかもしれないのですから。

 小樽運河だけが黒々としていたのではなく、この「桃尻娘プロポーズ大作戦」、全体に黒々としていた印象があります。(私のテレビがオンボロだったというだけの話かもしれないが…) 季節は3月の小樽。もう春先で雪は融けだしていて、道路はぐしょぐしょ。木々はまだ芽を吹き出さず、葉もついていない。で、あの悪臭も漂う運河でしょ…(知ってる人は知ってる。それも含めて懐かしいと私などは思うのです)

 今一度観てみたいと思う映画の筆頭ですね。(浅丘ルリ子と小樽運河というのも捨てがたいが…)