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かなしきは小樽の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ
 
 



一月の札幌
 
 

 佐々木倫子のマンガ「動物のお医者さん」。札幌の西根家は、猫のミケ、にわとりのヒヨ、犬のチョビにスナネズミ達が加わって大わらわ。彼らの面倒は自分で見ようと、公輝(まさき→「ハムテル」と呼ばれている)は漆原教授との不思議な腐れ縁によって(?)によってH大学獣医学部に進んだ。細菌とお友達づきあいしている妙な先輩の菱沼さんや、友人の二階堂たちと、様々な動物を相手に、実習とレポートに忙しい日々を送っている…というマンガですが、その、新年1月4日のH大学獣医学部公衆衛生学講座。

ナレーション 「菱沼の冬休みは もう終わっていた 〆切をすぎているのに 論文ができていないからだ (論文ができたところで就職があるじゃなしと思って油断して遅れた)」
ハムテル 「でも 菱沼さんも ちょっとは休めたんでしょう?」
菱沼聖子 「ま〜ね〜 でも あんまり いいことなかった」
ナレーション 「たしかに 菱沼にも つかのまの 休日があった」 「大晦日から 元旦にかけて 里帰りしたのである」 「菱沼のふるさとは 札幌から汽車(←JRともいう)で45分」 「港と運河と 水族館の まちであった」
(佐々木倫子「動物のお医者さん」第5巻)

 ふーん。「汽車」とか、港、運河に続いて、すらーっと「水族館」のことばが出てくるあたり、私と同じ、昭和の札幌の人なのかな?と思いました。(高校の同級生の妹の名が「倫子」だったので、長らく、あの佐々木君の妹さん?とか思ってた)
 特に、上の菱沼さんの里帰りの場面。小樽の街が見えてくる張碓〜朝里あたりの海岸線風景が描かれているんだけど、これなんか、典型的に子ども時代を札幌で過ごした人の絵ですね。札幌の子どもが親に小樽の水族館に連れて行ってもらった時、見えてくる「小樽」なんです。列車はディーゼル、線路は単線。海岸線と線路の間に民家。
 「おたる検定」の審査員が見たらさぞかしぶっ飛びそうな「小樽」なんだけど、マンガを読んでる私たちにはこれで何の異論もないのが面白いところ。だって、あの菱沼さんが生まれ育った街なんだもの。これで当然でしょう…
 小樽は菱沼聖子さんが生まれた街。これが「動物のお医者さん」のかくし味ではないでしょうか。成長もない。時代の激変もない。たかだか札幌人(北大生)の内輪話にすぎない物語展開を動かす数少ないアイテムとして「小樽」はうまく機能していると思います。

 昔は、東京人にとっての鎌倉みたいな、札幌人にとっての気軽で便利な「小樽」がすごーく嫌でした。札幌の方ばっかりへらへら向きやがって!ここには後志人としてのプライドはないのか!とかね。でも、私も年をとった。もう、どうでもよくなった。札幌にいると時間が流れない。あそこは、いつまでも子どもでいたい人たちが暮らすおとぎの国…と思った時、なんか、もう東京に出たい気持ちが失せるのと同じように、「札幌」にこだわる感情も自然と消えてしまった。