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かなしきは小樽の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ
 
 



十一月の余市
 
 

 積丹半島へ向かう国道二二九号。余市の浜中町を車で通った人なら、誰でも「おっ!今のは何だ?」と思うだろう建物があります。それが、旧余市水産会館。車をUターンして、その建物まで戻ったのは、もう十年前にもなるのだろうか… 当時から、もう入口は閉められ、窓ガラスも幾枚割れているような廃墟でした。

 この事務所は余市としては初めての本格的鉄筋コンクリート造りの永久建物で、地下一階地上二階一部三階建ての近代建築で、組合直営工事として着手した。(中略)この建物の完成は大正15年11月で、12月2日事務所を移転同月15日盛大に落成式を挙行し、この建物を「余市水産会館」と命令した。
(余市郡漁業組合「創立100周年記念誌」より)

 建築当時の漁協組合長はニシン漁や海運業で財を成した名門「猪股家」の猪股安造氏。屋上の眺望塔には投光器を備え、夜間に出漁する漁船を照らしたほか、暴風警報などの信号柱を設け、見張りをしたという。
(北海道新聞 2008年8月30日)

 余市の名門「猪股家」は、当然ですが、小樽の街にも深い関係があります。一例を挙げれば、小樽市平磯に建つ「銀鱗荘」。これは、元々は、余市の先代・猪股安之丞の邸宅でした。明治33年、三年の歳月をかけ余市に建てられたものを、昭和13年に小樽に移築したのです。屋根中央に「銀鱗荘」のシンボルともなっている望楼があることが、なにか、「猪股家」の血筋を感じさせますね。いつも海を見ていたかったのでしょうか。

 話を「余市水産会館」に戻します。ニシン漁で栄えた余市の象徴ともいえるこの建物は、老朽化が著しく、危険防止のため、年内に取り壊されることになりました。この「白亜の殿堂」と評された建物の白壁には、造形的にも優れた「サカナ」のレリーフがあるのですが、こちらは、町教育委員会が採取・修復し、来春、余市町水産博物館で展示公開することを一昨日の新聞が報じていました。