三月十九日


 

 八時頃永戸に起された。此男の面を見るとイヤでイヤで仕様がない。一緒に湯に行つて帰つて朝飯を食はせる。そして一緒に出かけて社に行つた。何と運の悪い日だらう。

 昨夜帰つた時、小樽日報の高橋美髯が来て居た、此室に泊めた。沢田君からの手紙を持つて来た。

 医師の俣野君が来て、社で種痘して貰つた。

 夕刻帰る。下の室に居る盛中出の銀行員増田が一寸来た。佐藤氏宅の書生富安君が来て十時頃まで居た。一緒に出かけて散歩して、そばを喰つて帰ると高橋や工場の者。沢田君とせつ子へ手紙かく。

 十五日、汽車が通じてから今日までの受信、在京の社長からの長い便り。岩崎正君。小樽の白田北洲は新聞配達をしてるといふ。本田君から通信料の催促。与謝野氏の手紙。せつ子から二通。高田紅果の絵葉書。都のてい子さんから二通。沢田君一通。小国善平君一通。二戸の小田嶋孤舟から葉書。秋浜三郎から無邪気な葉書。遂々北門の校正をやめて代用教員になつた加地燧洋から一通。外に明星の歌稿二十余通。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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