三月十日


 

 朝、向ひの笠井病院の看護婦梅川操といふ女から手紙が来た。一度加留多会に逢つただけの人、上思議に思つて封切ると、それは三尺娘から依頼されて、会見の日時を尋ねる手紙。返事は態とやらぬ。

 出社して、風雪被害の記事一頁書いた。田舎の新聞には惜しい程の記事と思ふと、心地がよい。

 心地よく帰つて来ると小泉君が来て居た。何日逢ふても気持のよい男である。社に使やつて十円とり、横山と三人出掛けたが、途中羽鳥に逢つて捕虜にし、鶤寅に繰込んで盛んに飲む。小奴は非常に酔うて居た。此日自分へ手紙出したといふ事であつたが、まだ届かぬ。(此夜の事を翌日“雪の夜の記”にかく)

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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