夜に入つて吹雪となつた。窓の硝子が礑めいて、飈々たる風の音、何とはなく心地よく胸に響く。城東子と連立つて鹿島屋に進撃した。追風を背に受けて、人一人通らぬ真砂町を走つた。
既にして市子が来たが、常の如くでない。小奴に金色夜叉を置いて来た事を一晩怨まれた。
一時頃帰って大笑ひ。
※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人