日曜日。
工場の者が二人来て、起された。十一時。小野清一郎君からハガキと盛岡中学校々友会雑誌を送つて来た。
間もなく永戸が正宗二本持つて来て、牛鍋で飲み初める。此男は矢張駄目だ。漸々一本平らげた所へ北東の小泉君が遊びに来た。男らしい気持のよい人間だ。相携へて鹿嶋屋へ行く。
飲み、且つ食ふ。小泉君はお国自慢の磯節を歌ひ、且つ北東社中の機密まで赤裸々に語つた。横山をとる事議一決。さて、市子は可愛いゝ眼をして無邪気な話をする女だ。酒が廻つてから一つ宛自分の惚れられた話をする事になつて。小泉君は電車の中の束の間の恋を談つた。市ちやんは小学時代の稚い恋物語をした。
四時頃帰宅。敗徳教員問題について、教員五吊連署の記事中止申込書が来て居た。
雪が頻りに降つて居る。夜また工場の者が来た。
十一時前に枕についたが、二時過ぐる迄眠れなかつた。
※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人