二月二十八日


 

 朝起きて、せつ子からと小国君からの手紙を読む。せつ子は第二の恋といふ事を書いてよこした。何といふ事なく悲しくなつた。そして此なつかしき忠実なる妻の許に、一日も早く行きたい、呼びたいと思つた。京子の顔も見えた。

 社に行つて、小僧に十五円電為替小樽へ打たせた。今日は何となく打沈んだ日だ。編輯に気が乗らぬ。心が曇つて居る。

 旋網漁業に関する社長からの特電を号外として出さして、四時頃帰る。アトは三人に委せて来た。

 社長へ打電して、小奴が一昨夜から胃痛で居るのへ見舞に行く。寝て居た。ぽんたは頻りに介抱して居る。随分苦し相である。心は益々重くなつて五時帰る。

 宮崎君からまた十五円来た。遠藤君が来て、第三小学校改革に関して、記事を中止する事を申込む。帰つて行つてから、宮崎君へ手紙認めた。

 八時頃小奴の許へ、手紙やつて、見番の出資者を訊したが、知らぬといふ返事が来た。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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