二月二十四日


 

 朝から晩まで、“雲間寸観”を初めとして三百行も書く。終日筆を放たずに、昼飯を喰ふのも忘れた。

 五時頃締切つて帰ると、秋浜君から、昨日来られなかつた詫状が来て居る。林君から明朝立つて札幌に帰るといふ手紙と共に、煙草一箱を贈つて来た。

 九時頃、衣川子を誘ひ出して鶤寅亭へ飲みにゆく。小奴が来た。酒半ばにして林君が訪ねて来て新規蒔直しの座敷替。散々飲んだ末、衣川子と二人で小奴の家へ遊びに行つた。小奴はぽんたと二人で、老婆を雇つて居る。話は随分なまめかしかつた。二時半帰る。

 小奴と云ふのは、今迄見たうちで一番活溌な気持のよい女だ。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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