二月十七日


 

 起きてせつ子と母の手紙を見た。社に行つて珍らしくも、小樽に居る野口雨情君の手紙に接した。今日は編輯局裡深く宿酔の気に閉されて、これといふ珍談もない。緑子は頭痛のため正午帰宅、小南子亦早退。四時頃〆切つて帰ると、角掛清松の手紙は此方へ来たいから旅費を呉れといふ。宮崎郁雨君からは、其結婚問題に就いて意見をもとめて来た。

 郁雨君へは早速返事をかいて、其昔の恋人の妹なる人に聟となることを勧めた。晩餐を済して佐藤南畝氏を訪ひ、北東の横山分取案を話し、八時半帰つて来ると、モ少し先に女の方が訪ねて来たといふ。よく聞いて見ると、本行寺の娘さんらしい。今日同寺で愛正婦人会の総会があつたのだが、社の都合で行けなかつた。

 昨日留守中に釧路病院長の俣野君が置いて行つて呉れた毛生液を今夜からつけ初めた。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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