二月十四日


 

 昨日の酔のためか、十一時に漸く起きて出社。風邪の気味で、何となく躯の加減がよくない。昨日入社した編輯助手永戸泔水は、女にかけては訥言敏行といふ人相をして居る。

 今日の編輯局は南畝氏太田氏を初め有馬君古川君らの来訪で大分賑やかであつた。然し僕にとつては少し風向が悪くて、市ちやんの“粋界”事件が曝露し、小静が問題になり、緑子はぽんたの事まで引合に出して、散々大笑ひをした。

 〆切つてから、富士屋といふ宿屋に今度来た薩摩琵琶手有馬正彦君を訪間、晩餐を御馳走になつて八時帰る。

 久振に宿に居る様な気がする。一月中に来た年始状を調べた。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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