二月十三日


 

 夕方、日景君と共に鶤寅といふ料理店へ行つて、飲み乍ら晩餐を認めた。歌妓ぽんたの顔は飽くまで丸く、佐藤国司君の嬖妾なる小蝶は一風情ある女であつた。八時頃隣室に来て居た豊嶋君讃井君及び福西とかいふ人々と一緒になり、座を新らしくして飲み出した。すゞめと云ふ芸妓は、実に小癪にさわる奴であつた。十時頃辞して帰つて来ると、第三学校の遠藤君が来た。

 十一時、二人で鹿島屋を襲ふた。例の愛嬌者の市ちやんと清子、景気よく騒がしたが、今朝の新聞に市子の事を出してあるので、少なからず脂を絞られた。二人を唆かして色々と粋界の裡面を覗ひ、市ちやんから“釧路粋界”一部に自筆の吊前とデヂケーシヨンを書かして貰つて来た。

 寝たのが一時。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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