二月七日


 

 四時半頃、帰らうと思つて社の玄関まで出ると、弥生で代用教員して居た時代の同僚遠藤隆君の訪問をうけた。一緒に下宿に帰つて、飯を喰ふ。昨年十月当地に来て、第三小学校に出て居るといふが、実に意外な邂逅であつた。第三学校は当町で一番成績の悪い、醜聞の多い学校だ。一つ内情を聞かうと思つたが、仲々話さぬ。乃ち社長から貰ふた時計を五円半に質に入れて来て、共に出かけた。

 喜望楼の五番の室は暖かであつた。芸者小静よく笑ひ、よく弾き、よく歌ふ。陶然として酔ふて、十二時半帰宿。喇叭節の節が耳について居て、眠を妨げられた。

 今日なつかしくも函館の宮崎君から、手紙が来た。釧路の人となつて以来、何だか余りに人間の世界から離れた様な気がして居るので、手紙といふ手紙のなつかしい事。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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