二月六日


 

 上杉も佐藤もまるで活動せぬ。日景君の頭は相上変光つて居る。編輯局は天下太平だ。

 四時に帰つて、洗湯へ行つて来て晩餐。今月の雑誌が来たかと思つて本屋へ行つたが、まだ来て居ない。東京と釧路とは少なくとも十日が間時勢が違つて居る。東儀鉄笛の“音楽通解”と石原即聞の“仏教哲学汎論”とを持つて来た。釧路には唯一軒の本屋正実堂と云ふがあるきり。松屋でも取次はするが、本は一冊もない。

 白石社長を訪ひ、御馳走になつて十時帰る。社長は明日立つて上京する。議会に対する釧路築港の運動だ。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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