一月二十四日


 

 寒い事話にならぬ。今日から先づ三面の帳面をとる。日景君から五円かりて硯箱や何やかや買つて、六時頃帰宿。社長の招待で編輯四人に佐藤国司氏と町で一二の料理店喜望楼へ行つた。芸者二人、小新に小玉、小新は社長年来の思ひ者であるといふ。編輯上の事何かと相談した。機械が間に合はぬので、三月初めまでは現在の儘で時々六頁出すことにした。

 町にはモ一つ北東新報と云ふ普通の四頁新聞が此正月出来た。碌な記者も居ぬけれど、兎に角好敵手たるを失はぬ。社では先づ此敵と戦ひつつ、順次拡張の実をあげねばならぬ。日景主筆は好人物、創刊以来居る人なさうで度量の大きくないと頭の古いが欠点だといふ。佐藤国司氏は理事と云つた様な格で、社長の居ぬ時万事世話をすると云ふ。一見して自分の好きな男だ。

 机の下に火を入れなくては、筆が氷つて何も書けぬ。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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