一月十四日


 

 十一時起きる。函館の吉野君、札幌の小国君、野辺地に居る父、岩見沢の兄等へ手紙かいた。

 今朝早く桜庭君へ、昨夜書いた手紙、例の件に就いて、式を簡単にする事や、ちか子さんの月給を母堂の小遺として実家へやる事や、自分が釧路にゆく事などを認めた手紙をやつて置いたので、午后一時半頃、同家を訪ふて母堂の意見をきく。確答は函館に居る一親類へ相談する迄待つてくれとの事。成程尤も千万の話なので、流石の僕も一言なく帰つて来た。

 帰つて見ると、今しがた沢田の母が結紊の品を持つて来て、置いて行つたとの事、自分は聊か困つた。

 奥村君を訪ふと、佐田が行つて居た。つまらぬ話で時間許り喰ふて仕方がないから、奇策を弄して奥村君を連れ出し、一緒に沢田へ行つた。山田町の伯母さんも来て居て、今日の次第を話して帰る。

 夕方には桜庭君が区役所の帰りに寄つてくれて種々相談した。要するに年寄の云ふ事も通さねば、アトが面倒になるから、当分時間を延期して呉れとの事。海老吊天口堂も来た。

 八時頃沢田から帰つて来ると、藤田武治と高田紅果が来て居た。大に文芸談をやらかす。十一時頃帰つて行く。高田が持つて来た長谷川二葉亭の“其面影”を読む。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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