一月五日


 

 新年の雑誌を読むに急がはしい。一作を読む毎に自分は一種の安心を感ずる。新小説などは随分人を馬鹿にしたものだ。十幾人の作者が顔を列べて居て、読むべきものは僅かに柳川春葉の“残者”一篇だけ。

 函館の吉野君から手紙が来た。封を截ると冒頭に“天下太平”。例の四十五円の質物を宮崎君が十円出して利上げをして呉れたと報じて来た。なつかしき友かなと自分は繰返して考へた。誠に寔に持つべきは友である。

 夜、沢田君が来た。自分の事が何とも決定せぬので、余程辛い思ひをして今迄来なかつたのだ。日報杜の事やら社会主義の話。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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