一月八日


 

 朝起きて洗湯に行つて昨年以来の垢を落した。

 午后大硯君来る。二人とも何だか意気銷沈。

 夜、小樽新聞杜長上田重良氏を自宅に訪ふた。洋風の応接所、ストーブが暖かい。中西代議士の出す新聞へ周旋を頼んで承諾を得た。帰路西堀君の店を訪ふと二十二三のハイカラな女が一人来て種々文学的な本を買ふ。西堀君とは知合らしい。何とかして其素性を探つて見ようと十時過ぐる迄店に腰かけて大にお喋語をした。女は自分が帰つてからもまだ残つて居た。遂々見当がつかぬ。帰りに一円五十銭借りて来た。

 家に帰ると札幌の小国露堂君が来た。十二時迄話す。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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