一月二日


 

 十一時頃起きた。初荷の馬橇の勇ましい声が聞える。怎も上景気だ。頭がムヅ痒くなつたので、斬髪にゆく。十九銭とられる。アト、石油と醤油を買へば一文もないといふ話。

 再出掛けて行くと、予て噂さのあつた西堀秋潮君が、札幌から移つて来て書店を開いて居た。寒い風の吹く店にチヨコナンと座つて居る。一時間許り話して帰る。

 家には斎藤大将と本田荊南(竜)君が待つて居た。正月らしい大きな声で笑つて居る。引張出されて一緒に斎藤君の所へ行つたのは日暮時であつたが、豚汁で盛んに飲み、盛んに気焔を吐いた。大硯君は上遠樺太へ行つて地所と露人の家を貰つて大地主になるといふ。本田君は北海道の新聞記者を罵倒する、

 帰つたのは十時過ぎ。流石に正月らしく陶然と酔ふて居た。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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