十二月三十日


 

 日報社は未だ予にこの月の給料を支払はざりき。この日終日待てども来らず、夜自ら社を訪へり。俸給日割二十日分十六円六十銭慰労金十円、内前借金十六円を引いて剰す所僅かに十円六十銭。帰途ハガキ百十枚を買ひ煙草を買ふ。巻煙草は今日より二銭宛高くなれり刻みも亦値上げとなれり。嚢中剰す所僅かに八円余。噫これだけで年を越せといふのかと云ひて予は哄笑せり。

 老母の顔を見るに忍びず、出でゝ北門床に笹川君を訪ふ。要領を得ず。

 夜年賀状を書いて深更枕に就く。衾襟垢に染みて異様の冷たさを覚ゆ。

 この日函館なる岩崎君より手紙ありき。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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