十二月二十一日


 

 朝新聞を見る。〔以下十六字抹消〕 沢田君が予と別るるの辞を載せたり。

 午後斎藤大硯君来り露堂君来る。談論風発す。

 夜、露堂子と携へて沢田君を訪ふ、逢はず。大硯君を其僑居に訪ふて深更に及ぶ。大硯君の談偶々其経歴に及ぶ。年少気鋭、嘗て日本新聞社に在り、後総督府官吏として台湾に赴く。性もと放淡、瓢然辞し去って、郷里青森に帰り、郷党に号令して成すあらむとす。これ実に快男子大硯君が生涯を誤れる第一歩なりき。所謂故山は人を殺すこと多し。後、函館に渡りて日々新聞に主筆たる事殆んど十年、予が同社に入れる時亦君主筆たりき。今や乃ち精気大に鈊り、漸く老ひ去らむとす。また小説中の主人公なり。予のために北海タイムス社に交渉せむとすと云ふ。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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