十月十六日


 

 此頃予が寓は集会所の如くなり、今日も佐田君西村君金子君来り、野口君来り、隣室の天口堂主人来る。何故か予が家は函館にても常に友人の中心となるなり、

 〔註 以下十三行斜線にて抹消〕

〈この日一大事を発見したり、そは予等本日に至る迄岩泉主筆に対して上快の感をなし、これが排斥運動を内密に試みつつありき、然れどもこれ一に野口君の使嘱によれる者、彼「詩人《野口は予等を甘言を以て抱き込み、秘かに予等と主筆とを離間し、己れその中間に立ちて以て予らを売り、己れ一人うまき餌を貧らむとしたる形跡歴然たるに至りぬ、予と佐田君と西村君と三人は大に憤れり、咄、彼何者ぞ、噫彼の低頭と甘言とは何人をか欺かざらむ、予は彼に欺かれたるを知りて今怒髪天を衝かむとす、彼は其悪詩を持ちて先輩の間に手を擦り、其助けによりて多少の吊を贏ち得たる文壇の奸児なりき、而して今や我らを売って一人慾を充たさむとす、「詩人《とは抑々何ぞや、

 今日より六日間休み。〉

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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