十月九日


 

 社を代表して、小樽商業会議所新築落成式に臨む。羽織と袴は山本の兄より借りたり。土産の酒一本は庶務の久保田君へ、折は札幌よりかへり来れる野口君と共に喰へり。何となく面白し。

 並木君より手紙来る。大嶋君のハガキを封したり。行先上明と思ひし君が、矢張日高の山中にありしは嬉し。

 夜、兄を訪ねて帰り来れば野口君来る。園田君と三人にて相語る。此日野口君の語る所によれば、白石社長は大に我等に肩を持ち居り、又岩泉局長も予の為めに報ゆる所を多からしめむとすと言明せる由、社に於ける予の位地は好望なり、遠からずして二面に廻るべし。隣室のト者来り、姓命判断の話一時まで。野口君と園田君は枕を並べて雑魚寝したり。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

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