十月八日


 

 この日野口君札幌なる細君病気の電報に接して急行せり。局長病気欠勤。予は編輯打合せの為め其宅を訪へり。途家に立寄れば、恰も園田君遙々空知の園中より来れるに会し、当分我が狭き寓に置く事にし、相携へて社に帰る。愛緑君は歌をよむ、新詩社の社友なり。九州熊本の人、数年前北海に入り巡査たる事四年、この度社の校正として十五円にて招げるなり。

 給仕に袴買ふ代として三円会計の方より受取りてやる。嬉しげなる様のいぢらしさ。予も亦十円だけ借る。夜山田町にゆきて卓子形机、一脚購ひ来る、二円なり。形大にして新らしければ心地よし。風強し。予は園田君の土産の赤き林檎を喰ひて共に談ず。君は身長五尺八寸の巨漢、しかも其人相の示す所にして誤らずんば、因循の人なり無能の人なり、感情の人なり、確たる生活の方針を有せざる人なり、一言にして云へばデカダン的性格の人なり。

 


※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人

1