四時頃より快男子大塚信吾君来り、並木君来り、吉野君来り、岩崎君来り、松坂君来り、札幌なる向井君よりハヤクコイといふ電報来れり。予は二三日中に愈々札幌に向はむとす。此夜大に飲めり。麦酒十本。
酒なるかな。酔ふては世に何の遺憾かあらむ。我ら皆大に酔ひて大に語り、大に笑ひ、大に歌へり。吉野君の所謂天下太平也。並木君のヴアヰオリンに合せて我らは子供の如く稚なき唱歌をうたへり、岩崎君は詩を朗読したり。吉野君の謡こそ最も面白けれ、曰く、「なった/\/\
十一時会散ず。並木君泊る。
この日札幌に流れ入りし松岡君より、帰函の希望を述べ又予の札幌に入るをとゞむる手紙来れり。人々相顧みて苦笑しぬ。
※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人