かはたれ時、砂浜に立ちて波を見る。磯に砕くるは波にあらず、仄白き声なり。仄白くして力ある、寂しくして偉いなる、海の声は絶間もたく打寄せて我が足下に砕け又砕けたり。我は我を忘れぬ。
※テキスト/石川啄木全集・第5巻(筑摩書房 昭和53年) 入力/新谷保人