二六八 四月三十日千駄ケ谷より 宮崎大四郎宛


 

一昨二十八日烏水氏と一洋食店に会食して後、午後二時発、三時新橋ステーシヨン着、青葉の雨に傘なければ、直ちに俥に賃して千駄ケ谷までまゐり候。

木といふ木の浅緑、残んの八重桜の色あせたるは行春の恨みに候ふべし。

並木君にはまだ通知せず、明日突然訪問せんとす。

思ふて居た程自分の頭はおくれて居らず侯。珍らしい事面白い事沢山あり、一両日中に手紙かくべく候。

  三十日午後三時

        東京府下千駄ケ谷五四九新詩社 啄木

 宮崎大四郎様

御尊父様初め皆々様へ宜しく御鳳声被下度候、明後二日は森博士邸の歌会に案内うけ候。

 


※テキスト/石川啄木全集・第7巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

1