二六六 四月二十七日横浜より 大島経男宛


 

三河丸、廿五日早暁函館抜錨、眠い目をこすつて一ケ年の間生命を託したる北海道と訣別いたし候、昨午前荻の浜寄港、花を見、鶯を聴く。本夕六時無事当港入港、今夜はこの宿屋に明す事と致候、冬の国より初夏の国に来た可笑しさは、綿入着て汗流し居候、明日小島烏水君と会食の約あり、午後東京に向ふ、

  二十七日夜十時

             横浜長野屋にて 石川啄木

 大島経男様

 


※テキスト/石川啄木全集・第7巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

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