二六二 四月十七日小樽より 宮崎大四郎宛


 

然り、と私は躊躇なく申候、小樽に入りて既に三夜を過し、具さに/\思ひ染むる所あり、常識的行動なるものが、少くとも家族を有し金を有せざるものにとりて、如何に重大なる生活の要件なるかをしみ/〃\と考へ申候、只今お手紙二通同時に着、兄の説教繰返し/\味ひ申候、然して遂に躊躇なく然りと申す外なく候、

何れ帰函の上、

七円也、正に拝受、

多分明十八日晩の汽車にて立つべく候、室お見つけ被下候由、如何な所でも金殿玉楼に候、

出立の際は打電可仕候。

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与謝野氏よりの好信、同封致候間御覧被下度候、先づ此方も決定。君が無ければ僕は空しく北海の悪生活に埋るべかりし也、来るべき真面目の文学的生活! 後の世に残るやうな作を出す事が、君に対する唯一の報恩なりと深く覚悟罷在侯、御憐察被下度候、

アトは何も云はぬ/\、

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野口雨情君に逢ひ候、同君も今月中には必ず上京する筈、その手筈も九分通りついた様に候、北海道は筆を持つて来る所ではないと申され居候、

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小樽日報杜は半瓦解(ooo)の運命となり、今迄朝夕両刊にて八頁出したが、再び四頁新聞になる事に決定、凡ての設備を二分の一にしたり、都合によれば当分休刊せねばならぬかも知れぬとの事、

釧路の小生のアトへは札幌に居た小国善平君ゆく事に決定

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『平凡』おもしろく読み候、『草迷宮』もうれし、さて小樽に来てはしなくも『照葉狂言』を見つけ、読み候、昔が切になつかしく候。かしこ。

  十七日朝十時            啄木

 郁雨兄

白村正両兄へよろしく願上候。沢田君は依然たり。

 


※テキスト/石川啄木全集・第7巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

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