二五二 二月二十八日釧路より 宮崎大四郎宛


 

君、君に御心配をかけた事は誠に済まぬ、君が斯く僕の無理までを通さしてくれるのは何とも云ひ様がなく有難い、前後二度に五十金確かに落手した、実際僕はよく大胆にこんな迷惑を友人にかけた事と自分乍ら思ふ、君の深い/\友情は謝するに辞もない、

サテ、万事はお蔭でうまく取運んだ、横山といふのは、一寸ホトボリの()めるうち遊ばして置いて我が社へ入社させる事に決定、当分僕の所に置く事になり、明晩此下宿へ来る筈だ、幸ひ隣室が明いているので大変都合がよい、高橋といふのは、白石氏の一乾児(コブン)にして我社の理事たる佐藤国司といふ人が、今度釧路実業新報(ヽヽヽヽヽヽ)といふのを出したので其方へ入れる事に決定、モ一人の方は目下別方面に入れるべく運動中だ、

君、実際君のお蔭で僕石川啄木は顔を立てた、お蔭で立てた顔は決してよごさぬ、僕は必らず此釧路で成功する、

君、僕の考通りに事件が進行して愉快此上なしだ、北東(oo)には社長西嶋といふ山師者を初め、小泉、花輪、横山、高橋、羽鳥と外に商況兼務の上得要領な男が一人居た、花輪といふのは我が派の間者で、佐藤国司氏の部下だ、それで今度の三人をワザと花輪と喧嘩させ、花輪に社長に迫らして退社させた、コウして居て、総選挙マギワになつた時花輪が工場の職工数吊を率ゐて突然退杜するといふ事に内議一決して居るのだ、

僕は今、主筆が上在で総編輯をやつてる上にこんな事で一日一杯頭をやすめる時間がない、従つて薩張(さつぱり)手紙もかゝぬが、多忙なる(ヽヽヽヽ)生活は(ヽヽヽ)確かに(ヽヽヽ)張合が(ヽヽヽ)ある(ヽヽ)

僕は彼の実務家に深い思想のない理由を初めて解つた、と同時に、年若くして心のみ老ぬる人の上幸を痛切に感じた、君、僕は年が若い、若いから若々しく活動してみる、

今度の金は自分の事につかつたのではないから案外早く返済の路がつくと思ふ

先は上取敢御礼まで、君の楽しき結婚問題の其後の消息きゝたい、早からんことを祈る、

  二十八日夜             啄木

 郁雨大兄 侍史

二白、吉野兄の件、アノ儘交渉は面倒と思つたから、少し小刀細工を初めた、二三日前の新聞の驚くべく敗徳事件! といふ記事を御覧になつたら解るだらう、今日日高の大島さんから手紙が来たよ、代用教員をしてる由、何と云ふてよいやら

 


※テキスト/石川啄木全集・第7巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

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