二五〇 二月二十六日釧路より 沢田信太郎宛


   【鹿島屋市子の絵葉書に】

午前十時頃、起きて飯を喰ひ乍ら新聞を読み、出社して立つづけに毎日三百行位書くなり、夕刻帰宿して郵書一束と吊刺を閲し、返事を出すべきには返事を出して、瓢然門を出づるや其行く所を知らず。宇宙は畢竟盃裡に在り焉、浅酌低唱の趣味真に掬すべし。

妹共、よろしくと申居候。就中シヤモ虎の小奴と鹿島屋の市ちやんがよろしくと申居候、草々

  二月二十六日夜         啄木生

 沢田信太郎様

 


※テキスト/石川啄木全集・第7巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

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