二二七 十二月十三日小樽より 宮崎大四郎宛


 

君、急がしいためとは云へ御無沙汰誠にすまぬ、

ところで面白い事が出来た、昨夜事務長と喧嘩して頭に四つ五つ瘤を出した。僕は今日から出社せぬ、退社だ/\、沢田君も二三日にやめるだらう僕らは日報を見限つた、

当地の三富豪が金主で中西代議士が社長になり来年一月末から有望な一新聞が札幌に生れる、僕はそれの三面主任に九分通り決定して居る、矢張僕らは札幌といふ美しい都に縁が深いのだ、但し本年中は当地で暮す、転ずる毎に月給の上るのはよいが、その度金がかゝるには閉口、札幌へ行つたら雑誌も必ず出す、君の問題のその後をきゝたい、結婚の時は行き度いものだ、妹を札幌の鉄道管理局へ奉職させた所がマタ今日脚気になつて帰つて来た、これには閉口、夏に貰ふた妙薬を売る所が今もあるか知らん、あるなら誠に済まぬが、一週間分許り恵んでくれ玉へ、

ハゲは直径一寸以上のもの三つになつた。一家皆々壮健幸ひに御安心を乞ふ。

  十二月十三日夜

         小樽区花園町畑十四番地 石川啄木

 宮崎大四郎様

 


※テキスト/石川啄木全集・第7巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

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