二一二 九月二十七日札幌より 宮崎大四郎宛


 

昨夜おそく兄の手紙を見候、何とも云へなかりし。

先日差上げたる僕のハガキ御覧の事と存候、小樽日報にゆく事愈々確実、(実はタイムスに今欠員なき故やむをえざりし也)今朝北門の方は辞し候、一時間の後、乃ち四時十分に発する汽車にて、この美しき札幌、兄を迎へて豚汁つつかむとしたる札幌、誠に/\吊残惜しき札幌を去るべく候、今窓外の雨篠を束ねたる如く、遠く雷鳴さへ聞え候、僕が札幌にて取れる最後のペンはこのハガキに候、 演習に小樽迄来るかどうか、先日かいて上げた小樽の兄方へ知らしてくれ玉へ。出来る事なら何とかかんとか方法をつけて逢ふ。さうでなければどうも心地が悪い。

  二十七日午後三時

                   札幌にて 石川啄木

 宮崎大四郎様

 


※テキスト/石川啄木全集・第7巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

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