一九五 七月八日函館より 宮崎大四郎宛


 

昨日の御礼申上候、

お蔭にて人間の住む家らしくなり候ふ此処、自分の家のやうでもあり他人の家のやうでもあり自分が他人の家へ来てるのか、他人の家へ白分が来てるのか、何が何やら今朝もまだ余程感覚が混雑して居り侯、ヘラがない、あゝさうだつた、といふので今朝は杓子にて飯を盛り候、必要で、足らぬものまだある様に候、否、数へても見ぬがあるらしく候、兎に角一本立になつて懐中の淋しきは心も淋しくなる所以に御座候、申上かね候へど、実は妻も可哀相だし、○少し当分御貸し下され度奉懇願候、少しにてよろしく御座候、早々

  八日朝

             青柳町十八、ラノ四号 石川啄木

 宮崎大四郎様

 


※テキスト/石川啄木全集・第7巻(筑摩書房 昭和54年) 入力/新谷保人

1