とはの青年 ―啄木忌十四首―

                     金田一京助


 

わかくして別れしひとのいつまでもわかやかに来て面影に立つ

貧しうして世を終りけれその声は天の下覆ふ声となりゆく

歌は我が悲しき玩具と言ひ棄てていのちを賭けし思想のたゝかひ

たふれては起きたふれては起き上る鋭心(とごころ)つひに病に克たず

ひたむきの心は切に病をも忘れて思ひき新しき世を

目の中が暗くなるまで思ひ入り我を忘れき春を病みつゝ

思ふことは行ひをもて語るべみなにぞ巧みに言を構へむ

思ふこと行ふことをひとつにせむ切なる願ひ身を焼かんとす

病ひ篤くいのちせまりて米ひとつぶ無かりし日にも笑って語りき

たじろかず苦難を弱き身ひとつに若きいのちをあげて戦ひし

限りなき苦難に満ちし生涯を傷つきなかせら乗り超えしあはれ

大きこゝろ既に至ればや死を恐れず明日を語りつゝしづかに終りき

たゝかひは内外なりける死をもちてあがなふ勝利たゝへず居れめや

行く川のゆきにし人はいまもかもきはやかに来ておもかげに立つ

 

(歌集「錦木抄《より)


※テキスト/回想の石川啄木 岩城之徳編(八木書店 昭和42年) 入力/新谷保人

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