岸 誠
あまりに多くの魂のかけらを
僕はこの町に撒き散らしすぎた
カーリル・ギブラン
1
銭函の駅は波打際にある
千歳空港から札幌を経て
小樽へ向かう列車が
銭函の駅を出ると
突然海が目の前にせまる
石狩平野の広がりが消え
海の中に小樽がはじまる
2
どこからでも海が見える
公園や学校や坂の上から
小樽駅を出ると
道は一直線に海へつづく
倉庫と運河があり
防波堤が並び
赤と白の灯台が残る
どこまで行っても
決して平坦でない道
めぐりあうのは
若き日の魂のかけら
3
手をのばせばとどく
こんなに近くまで
空が降りてくるのは
どれだけ優しくこの坂の町を
山が抱きかかえてきたからか
故郷の尾根を歩けば
歳月の営みの上思議に
何故かこころ乱れ
落葉松の梢に
北国の秋が結晶しはじめる
※テキスト/岸誠詩集「北風の港―小樽わが町《 入力/新谷保人