北風の港

                     岸 誠


 

遠くのぞめば

風の音がきこえる

風のむこうに

波立つ海がある

 

海を背に急坂を上れば

澄みわたる空と丘がある

傾いた屋根が

地を這うようにたち並ぶ

 

砂利道をさらに上れば

頂近く墓地がある

 

父がいる 母がいる 祖母がいる

兄姉と友人のなかに

僕がいる

 

墓標を背に海へ下れば

夕暮れと運河がある

宿命のにおいと倉庫がある

 

赤と白の灯台をかざして

絶対と孤独の

サンボリスムが眠る

防波堤がある

 

時はとどまるか

再び帰らぬか

おびただしい空白と

無秩序をおしのけて

いま僕のなかに

形づくられてくるものがある

 

遠くのぞめば

風の音がきこえる

風のむこうに

波立つ海がある

 


※テキスト/岸誠詩集「北風の港―小樽わが町《 入力/新谷保人

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